活動報告

2023年2月合同例会

参加者 123名(現地参加:61名、Web配信:53名、ビデオ配信:7名、お試し参加:2名)、技術交流会参加者:57名
開催日 2023年2月1日(水)
会場 東京国際展示場(ビッグサイト)2・3ホール 「新機能性材料展2023」展示会場内特設ステージ 「コンバーテックステージ」
講演

1.「自動車業界における樹脂材料のカーボンニュートラルと資源循環の取り組み」
日産自動車株式会社テクニカルセンター 主管 小松 基氏
 地球温暖化に対応するために、各国がカーボンニュートラル宣言するなか、自動車業界も対応が急務となっている。日産自動車では2050年カーボンニュートラルの目標を発表し、今後5年間でグローバルでの電動車比率を40%以上に引き上げを計画している。
EVは走行時のCO2排出量はゼロであるが、車体製造時はガソリン車の2倍以上となっているため、廃車からの資源循環を最大限活用し、製造時のプラスチックのCO2のゼロエミッション化を目指す。サーキュラーリサイクルスキームを構築するため、リサイクラやサプライヤーと一体となって、廃車回収や解体作業の自動化、リサイクル材の開発等の課題解決を推進している。
また、EVはバッテリーやモーターにより200~400kgの重量増加になるため、軽量化が課題となっている。軽量化よりCO2を低減できるため、骨格のマルチマテリアル化やバッテーリーケースアッパーの樹脂化が検討されており、CFRP、GFRPなどコンポジット材料の耐火性能向上が期待されている。
本講演では、リサイクル原材料(廃車)の回収問題や普段見ることがない解体作業も動画でご紹介いただき、自動車業界の資源循環の課題や取組みを知る貴重な機会であった。

2.「ペロブスカイト太陽電池の高性能化開発の現状と産業化の動向」
桐蔭横浜大学 大学院工学研究科 教授 池上 和志氏
 日本のエネルギー自給率は10数%とOECD諸国と比べて低水準となっており、資源の少ない日本では、再エネの切り札として、印刷法で製造できるペロブスカイト太陽電池への期待が高まっている。
ペロブスカイトは2005年ごろから太陽電池として研究されはじめ、2022年には全固体型のセル効率が25.7%と理論限界近くまで向上し、結晶Siとほぼ同じ効率となっている。
 ハロゲン化ペロブスカイトの特徴は、①強い光吸収特性により電圧が高く、②可視光域をカバーする吸収領域を持ち、③室温~100℃で合成でき、欠陥を自己修復するので製造しやすい。製造方法として、スピンコートやスロットダイコートの他、桐蔭横浜大学で研究しているインクジェット法が紹介された。光吸収層の厚みは0.3~1µmと非常に薄膜なので、結晶Siの100~300µmと比べて省資源であり、ペロブスカイトはイオン結晶なので再結晶させながら定着させ、結晶を大きくしながら緻密にすることが重要とのお話があった。
 ペロブスカイト太陽電池は、軽量でフレキシブル、安価のため車載用途や電子線・陽子線に対する劣化が少なく、低照度でも効率が高いため宇宙用途にも期待されており、課題とされている無鉛化や耐熱性向上に関する研究もご紹介いただいた。
ペロブスカイト太陽電池は人的交流によってできたという研究開始の舞台裏のお話があったが、当研究会でも技術交流会の人のつながりから新しい機能性フィルムができることを期待する。

3.「フィルムを使った超伝導物性探索」
(大学共同利用機関法人) 自然科学研究機構 分子科学研究所 教授 山本 浩史氏
 有機エレクトロニクスは従来のシリコン系無機材料に比べ可撓性に優れ、かつ資源に配慮した技術として期待されている。本講演では、有機の材料を使ってフレキシブルフィルム上に形成された超伝導の電界効果トランジスタの動作と、同じくフィルム上に形成された有機超伝導体によるスピントロニクスデバイスの動作について紹介された。有機超伝導トランジスタをフィルム上に構築することによって、フィルム曲げによるデバイス伸縮と格子の伸び縮みが実現し、それによる物性制御が可能となる。その結果、電子の運動エネルギーが変化し、物質相の転位、すなわち超伝導と絶縁体のスイッチングが起きることが紹介された。またデバイス界面をフォトクロミック分子で修飾することにより、光を当てた時に超伝導がスイッチングするという実験結果など、フィルムと有機エレクトロニクスを組み合わせた低温実験で、様々な基礎的物性研究の成果が得られている。

11月関西例会

参加者 122名(現地参加:49名、Web配信:61名、ビデオ配信:12名)、技術交流会参加者:41名
開催日 2022年11月11日(金)
会場 京都テルサ 東館2,3セミナー室
講演

1.「ディスプレイのぎらつき度合評価方法の開発・JIS 化とその活用」
ダイセルビヨンド(株) 事業統括部 部長 林 正樹氏(機能性フィルム研究会幹事)
<要旨>
 ディスプレイと防眩処理との組み合わせで発生するぎらつき現象は、近年パネルの高精細化とともに顕在化し周知の課題となってきている。従来目視によって官能的にぎらつき度合の評価が行われてきたが、耐ぎらつき性能が良いディスプレイを商品化するためには材料メーカーならびにディスプレイデバイスメーカー間で防眩処理機能についての共通指標が必要であり,そのためのぎらつき度合定量化が重要となっている。本発表では,ダイセルが開発してJIS 化された目視との相関性が高いぎらつき評価手法について説明がなされた。また、既に各社がそれなりの合理的な根拠や使用実績を持つぎらつき評価装置・方式を保有しており、JIS化においては「ダイセル自社方式の利点」を主張するだけでは議論が収束しない状況であった。そこで、客観的な理論・データを元に各方式の利点・制約事項を鑑みることにより「公正かつ妥当な測定方法」を規格の骨子に添えることでJIS原案作成委員会の合意を得ることができ、JIS成立に至った。自社よりも業界の利益を優先することがJIS制定には重要であり、本件は世界に先駆けてぎらつき度合評価技術の標準化に至った成功事例であるといえる。

2.「世界初独立型交流電池と特殊電気回路」
AC Biode(株) 代表取締役社長(Co-Founder & CEO) 久保 直嗣氏
<要旨>
 電池にBiode(バイオード:中間電極)を追加するという発想により、単独で交流にて充放電を実施(化学反応は直流)する。この交流出力を使いキャパシター等で昇圧することで、直列電池に比べて約10%の容量を増やすことができるようになった。ライフタイム増大などの性能面のみならず、安全性への配慮や従来の電池製造プロセスを適用できるような設計思想が考慮されており、初期の設計段階から実用化を見据えて従来技術とのマッチングが盛り込まれている。すでに自動車・パワー半導体各社から引き合いがあり、迅速な実用化が期待される技術である。その他、AC biodeは欧州連合EU傘下のEIT InnoEnergy等から出資を受け、灰リサイクル、廃プラスチック解重合触媒等の開発・製造販売なども行っており、幅広く環境を見据えた事業展開を行われている。

3.「キラルネマチック液晶高分子を利用する光学・力学材料」
立命館大学 生命科学部 応用化学科 教授(専門:高分子材料化学) 堤 治氏
<要旨>
 キラルネマチック液晶中では分子がらせん状に配向し、らせん軸方向に屈折率の周期構造が形成されるため多彩な光学機能を発現する。これまでキラルネマチック液晶のらせん軸をフィルム面内や球体内で多次元配向制御する技術は存在しなかったが、堤研究室で液晶モノマーの重合過程においてらせん軸の配向を制御する技術を構築した。この技術によって作製されたキラル液晶エラストマーフィルムは、伸長によって構造色を変化させることが可能である。本技術の応用として力やひずみを計測・可視化する材料が考えられるが、粘弾性特性により伸長後の戻りが遅く、そのままでは実用性に乏しい状況であった。そこで、シリコーン樹脂で液晶エラストマーを挟み込むことにより、光学性能は液晶エラストマー、伸縮性能はシリコーン樹脂に持たせるという機能分離の発想で、応答性に優れた材料構成を構築することに成功されている。学術的な研究成果のみならず、それを実用化につなげる推進力についても注目すべきご講演内容であった。

ウェブハンドリング技術研究会との共催特別例会

参加者 187名(ウェブハンドリング技術研究会64名、機能性フィルム研究会122名、お試し参加1名)
現地参加:52名、Web配信:109名、録画配信:26名、技術交流会参加者:43名
開催日 2022年10月21日(金)
会場 タワーホール船堀 小ホール
講演 

1.「ウェブハンドリング技術の重要性と今後の将来性」
東海大学 工学部 機械システム工学科 准教授(株)SUNAMI 代表取締役/ウェブハンドリング技術研究会 会長 砂見 雄太氏
<要旨>
 ウェブハンドリング技術研究会は、創設されて18年目に入るが、創設者である東海大学名誉教授の橋本 巨先生の功績や研究会の成り立ち、また活動内容などについて説明があり、また機械学会などでの今後の活動紹介があった。また、ウェブハンドリング技術に関しては、従来から経験と勘で進められていたが、メカニズムを学術的に明確にし、不具合の原因を探求し、歩留まりをあげるために対策をとる技術として、設計開発段階から導入できる計算手法などの説明があった。また技術動向として広幅化、高速化、長尺化、超精密化(薄膜など)、複雑化などが顕著になってきており、これまで枚葉での生産しか出来なかったものをウェブハンドリング技術開発により連続化が進んでおり、特に最近ではバッテリー関係のフィルムに関する問合せが増えている。ウェブハンドリングの問題点として、ロールとタッチするフィルムとの間に空気が入り込み、ロールとフィルムとの摩擦低下によるスリップや摩擦力の違いなどによる皺などが発生するが、実践と実験に基づく理論化と原因調査やトラブルへの改善方法などについて分かり易く説明をいただいた。また今後の技術革新に向けてIoT化(アナログからデジタル)、アプリケーション技術やシミュレーション技術の高度化、AI化などが不可欠との指摘もあった。

2.「製造業における AI 技術導入の現状とウェブハンドリングへの応用」
(株)クロスコンパス 代表取締役社長/ウェブハンドリング技術研究会 副会長 鈴木 克信氏
<要旨>
 半導体を中心としたものづくりを進めてこられているが、ルネサスエレクトロニクス時代に社内でAIを利用した生産性の向上方法、品質の改善方法を開発されたこと、また転職した会社である(株)クロスコンパスの紹介及び技術の伝承にはAIが活用できる手段だと認識したとの説明があった。研究所には5名の研究者が、現在AI技術で直面している課題を人工知能の先にある生物から学ぶ人工生命(Artificial Life)などの研究も進めているが、軸足はあくまでも「ものづくり」であるとのこと。2015年からディープラーニング、古典的統計学なども取り入れ、「見える化」などを進めている。1960年代の第1次AIブームから始まり、新たなアルゴリズムの開発とともに様々なテータの取り方(センサーなど)も開発されていることが拡大の一助になっており、大量に取り込んだデータからリアルなところに近づけること、またその理論形成が重要であるとの指摘があった。ディープラーニングの学習方法として、「教師有り学習」(重要なことを人が記憶させる)、「教師なし学習」(自身で判断して学習する)があるが、現場では特に良品学習という「教師なし」学習から、「教師有り」学習へ移行することが高精度なAIを作る大切な事で、それを簡単に、短期間でできる環境の紹介があった。同社のAIでは、アナログデータなど詳細で大量のデータをクラウドにあげて判断する方法ではなく、製造装置に実装し、予知・予見、条件設定最適化などを行えている。同時にタクトタイムを減少するために自社技術による高速化も進めている。現在進めているAI活用事例などの紹介もあり、当研究会でも非常に興味深い内容であった。

3.「DNP の機能性フィルムが実現する『未来のあたりまえ』」
大日本印刷(株) 生活空間事業部 開発本部 本部長/機能性フィルム研究会 運営委員 中島 但氏
<要旨>
 大日本印刷(株)の会社紹介及び印刷に関連する技術(企画、セキュリティを含む情報処理、加工、精密塗布など)から様々な事業領域に応用展開しているとのことであり、同社が目指す「未来のあたりまえ」として、「光制御」「中身を護る」「表面を強くする」「表面を彩る」「異種材料を接着する」「電気を通す」「熱を制御する」という7つのイノベーションに基づいて各種機能性フィルムの付加価値を分類し、様々なシーンで展開できるよう今後開発を続けているとのことである。社会課題である「CO2削減」「資源循環」「自然環境保全」を目指した製品サービスなどとしてバイオマスプラスチックや紙を併用した容器などや、PETボトルのリサイクル事業、植物由来の包材、モノマテリアル包材などグリーンパッケージングの紹介もあった。さらにCO2削減に向けてはサプライチェーン全体での取り組みなども紹介された。また、生活空間関連商材としては、住宅内装、外装などでのEB技術、デザイン技術などを応用し、環境配慮設計技術、耐久設計技術に基づく製品開発が進められていること、また次世代通信技術と建材を結びつけたアンテナや各種モビリティ向け製品と結びつけ、さらに加飾技術などとの結びつけた技術、製品開発、電池関連、エレクトロニクス部品関連など多岐にわたる技術、製品開発の紹介があった。

4.「フレキシブルデバイスに資する機能性フィルム開発のための湾曲計測」
東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 教授 宍戸 厚氏
<要旨>
 冒頭「機能性フィルム研究会」の紹介が有り、その後大学での研究内容に関して説明をいただいた。延伸などの高分子配向により多くの機能をもたらすことが出来るが、高度な配向制御が非常に難しいため微細加工、パターニングなどによるさらなる機能化の妨げになっている。そこで光重合を利用し、直接分子を並べる研究や光屈折率変調材料等の研究を行っている。一方、フレキシブルなフィルムの計測法の研究、開発についての発表があった。最近のスマホでも曲げられるものがあるが、高分子フィルムを曲げたときの歪み測定で、理論解析への期待がある中で多くの良質なデータを収集する必要がある。積層フィルムなどの場合、サプライチェーンの中で良品を判断するために積層体での表面の歪みの解析技術が必要になる。現状では、曲率半径と回数しかパラメーターがないため、研究開発の起点となるデータが少なく新たなフィルム開発の障害となっている。研究室では歪を測定するコンパクトな装置を開発しており、精度が高く、リアルタイムで測定でき、材料組成などは問わない点が特徴とのこと。また、この装置で測定したフィルム歪について試験結果並びに所見について説明をいただいた。数値化することにより、デバイス設計などにおいて、これまでの勘と経験と異なり、議論が可能となる非常に有用なデータが得られることが紹介された。

9月例会

参加者 145名(会場:40名、Webライブ視聴:85名、ビデオ視聴:20名) 内お試し参加:2名含む
(技術交流会開催なし)
開催日 2022年9月7日(水)
場所 タワーホール船堀 小ホール
講演

1.「限りある資源を未来の子供たちへ『ボトルtoボトルへの挑戦』 起業から今日までのあゆみ」
協栄産業(株) 代表取締役社長 古澤栄一氏
<要旨>
 『分ければ資源、混ぜればゴミ』を企業理念に1985年に起業され、日本で初めてPETボトルの「ボトルtoボトル」のリサイクルを実現。全国に拠点を増やし2021年度にはグループ売上約230億円、従業員約420名にまで事業拡大している。しかし、そこまでの道のりは決して平坦ではなく、いくつもの壁があった。社長ご自身に余命宣告のがんの発症、金融機関、飲料業界、国などとの様々なやり取りの中、数多くの試練に直面しながらもこれらをすべて乗り越え、PETボトルの水平リサイクルは実現した。ボトルtoボトルの国内リサイクル比率は現状約25%、大手飲料各社は使用実績を拡大し2030年には50%にすると全国清涼飲料連合会が発表している。そして世界初、回収PETボトルからプリフォーム製造までのダイレクトリサイクル技術を開発し、カーボンニュートラルの実現に貢献していくとのことです。

2.「研究開発と事業展開を特許で「攻める」~手作りIPランドスケープのご提案~」
(株)ネオテクノロジー 代表取締役・技術士 中島隆氏、取締役 橋本小百合氏
<要旨>
 特許情報の活用を通じて“技術と特許をつなぐ” 新価値創造支援の具体例を紹介する。特許情報には社会の変化とそれに伴う技術的課題を解決しようとする企業の取組みが表れている。ネオテクノロジー社は、特許情報を、技術情報、ビジネス情報、創造のための刺激情報として活用し、R&D経験豊富な技術専門スタッフのコーディネーションによる、お客様の事業企画と研究開発を促進する支援事業(ACTAS)を行っている。機能性材料・フィルムにおいては、材料がどのように川下用途で用いられるかの「使われる技術(材料に求められる機能)」をキャッチし、「攻め」の研究開発を行う技術マーケティングの考え方がますます重要になってきている。いままでのACTAS実践の中から、最近話題の6Gや医療ヘルスケア分野への新規参入を検討する具体事例が紹介された。

3.「微生物に作らせる海洋生分解性プラスチック」
東京工業大学 物質理工学院 材料系 ライフエンジニアリングコース 准教授 柘植 丈治氏
<要旨>
 一部の微生物には、炭素貯蔵物質として脂肪族ポリエステル・ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を合成し、細胞内に蓄積することが知られている。PHAは 熱可塑性を有し、海水中でも生分解可能なプラスチックとしてストローなどに加工され身近な材料になりつつある。本講演では、PHAの海洋生分解性に着目し、新しく見出した生分解性プラスチックの物性やその生分解性について紹介した。特には、活性汚泥に存在する微生物が合成する3H2MB(3-Hydroxy-2-Methylbutyrate)含有のPHAについて、遺伝子組換え大腸菌を用いて生合成経路を確立してP(3H2MB)を得ることに成功した。この新規なバイオポリマーP(3H2MB)は、高温領域でPP(Polypropylene)よりも素早く結晶化することが確認できた。また、低分子量体PHAを用いたポリウレタンの合成例が示され、駿河湾の表層水と深層水で生分解実験を行った結果も示された。

2022年度定期総会&6月例会

参加者

のべ113名(会場:44名、ライブ視聴:56名、ビデオ視聴:13名)
(技術交流会参加者:31名)

日時 2022年6月14日(火)
場所 タワーホール船堀 小ホール
総会

以下の議案についてすべて承認されました。
1) 1 号議案 2021 年度(2021 年 4 月 1 日〜2022 年 3 月 31 日)事業報告
2) 2 号議案 2021 年度事業収支報告、審議
3) 3 号議案 2022 年度下記事業計画に関する審議 ① 活動方針(年次テーマ、重点課題) ② 活動計画 ③ 運営予算
4) 4 号議案 2022 年度役員選任(会長、副会長、運営委員、相談役)に関する審議

講演

①「5G に対応するメタロイドソリューション」
(株)イオックス 研究開発部 市場開拓グループ 志村 昌則氏
<要旨>
 樹脂やフィルムに無電解めっきを析出させる為の触媒インキで、今後5G製品で要求される低誘電フィルムや難接着フィルムに粗化することなく高密着のめっきを可能にする新しい工法材料として「メタロイド」が紹介された。アンテナ等高周波特性が要求される製品は基材の誘電特性とスキンエフェクトが重要になり基材表面を祖化したものでは伝送損失が大きくアプリケーションが限定的になるところ、「メタロイド」では租化無く化学的に密着をしている為高密着で低伝送損失のFCCLや製品を作製する事が可能となる。ディスプレーを有する製品や透明アンテナで要求される光学特性も透過率を大きく下げる事無く(基材に対し約5%低下)Haze値は基材と同等レベルで実現可能で基材背面の黒化も特別なレイヤーを設ける事無く実現される。これらの特徴を生かしコーティング技術やパターニング技術で様々な5Gアプリケーション(スモールセルアンテナ、通信ケーブル、ヒーター、タッチセンサー等)に対応しサステナブルで先進的な製品づくりが可能となるとの説明があった。

②「エンジニアのためのキャリアデザイン」
百瀬知財・人材コンサルティング 代表 百瀬 隆氏
<要旨>
 近年、企業価値に占める無形資産の価値が高まりつつあるが、それに伴って企業内で無形資産を生み出す人的資産そのものの重要性が高まっている。そこで、企業内で働く個人がどのように自身の知的資産を蓄積し、企業の無形資産の蓄積に貢献していくかという視点が重要なポイントとなってくる。そして、特に開発者、研究者が自身の知的資産をどの様に形成していくかを含めたキャリアデザインが重要になってきている。これに関連して、参考図書として「ライフシフト 100年時代の人生戦略」において、長寿命化のなかでマルチステージを生き抜くために無形資産(所得、健康、変化への対応力)を蓄える必要性が指摘されていることの紹介があった。一方、現在のVUCA(不確実性、不透明性)の時代では、企業経営自体が不安定な状況にあり、企業側の人材育成計画も機能しにくくなっている。つまり、新たな事業創出の取組を行うにしても、社内でそれに対応出来る人材が不足していることから、外部から人材を補強すると言うことが起こるなど、企業として開発者や研究者の育成を行うことが難しくなり、個人に自律したキャリア形成が求められる傾向にある。今回の講演では、自分自身のキャリアデザインを行う際には、「自分を実験対象とする考え方」が示され、それを行うために自分を上から観察する「メタ認知」能力が必要であることが強調された。なお、この「メタ認知」能力を上げる方法として、学術的には定まっていないが、講師自身の経験として、自身の場所の移動(国内から海外、都市から地方など)させることにより視点を変えることや、相手に視点を移すという「(他人への)気を遣う」意識を持つことが重要であるとの説明があった。又上司/部下の関係のなかでは、部下に視点を移し、部下がどうしたいのか(その人自身が持つ答え)を聞き出すことが重要との指摘もあった。
参考図書:
1)「知的経営の神髄」東洋経済新報社
2)「ライフシフト 100年時代の人生戦略」東洋経済新報社
3)「働く人のためのキャリアデザイン」PHP新書
4)「メタ認知」中公新書クラレ
5)「国際マヴェリックへの道」筑摩書房

4月例会

参加者 のべ170名(会場:48名、ライブ視聴:96名、ビデオ視聴:26名)
日時 2022年4月20日(水)
場所 タワーホール船堀 小ホール
講演

1.「ウイルス感染症について新型コロナウイルス〜身近なウイルスまで」
㈱スギヤマゲン 学術室/開発室 室長 霜島 正浩 氏
<要旨>
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の特徴を他の感染症病原体となる微生物との違いや、今までのSARSや新型インフルエンザなどのウイルス感染症との違いにより述べられた。ウイルスは、微生物ではないため、一般的に行われている培養による菌増殖を経て顕微鏡観察による検査ではなく、イムノクロマト抗原検査や抗体検査、遺伝子検査(PCR)など専用の検査が必要である。感染症の分類により、それぞれ対策が異なり、隔離方法や検査方法や検体の梱包、輸送方法などが細かく決まっている。実際、新型コロナウイルス検査の費用も各期間により異なり、4/1以降引き下げになり、7/1よりさらに引き下げられることが決まっている。新型コロナウイルスは、インフルエンザのように喉部での感染ではなく、直接、肺での感染がおこり、短期間に肺炎を発症することから、より危険性が高い。感染対策では、マイクロ飛沫感染の危険度が高く、換気による空気感染の防止が有効である。また、最終的にはワクチンによる予防が有効であり、そのワクチンの種類やその原理を基に新型ウイルスだけでなく、他の感染症予防への有効性も説明された。

2.「富士フイルム独自抗菌・抗ウィルス技術HydroAg+の技術紹介及び新製品フィルム「HydroAg+Virus Plus」の特徴について」
富士フイルム㈱ メディカルシステム事業部 モダリティーソリューション部 マネジャー 阿部 洋史 氏
<要旨>講演の骨子は以下の5点である。
1.富士フイルムグループの紹介(事業展開や歴史背景)
2.開発背景
3.HydroAg+の技術的な紹介
4.応用商品の紹介
5.アプリケーションと応用の紹介
 1934年に大日本セルロイド㈱の事業分離として創立される。2006年より富士フイルムと富士ゼロックスの2大事業を傘下に束ねる富士フイルムホールディングス㈱に移行される。会社理念はNever Stop~挑戦だけが未来をつくる。
2000年をピークに写真用フィルムの需要が激減していく事業環境下において、写真事業から生まれたコア技術を活用し、M&Aで事業領域を拡大していくことに成功した稀有な企業だと改めて理解した。代表的なコア技術は、フィルムベース、感光、精密塗布、撮像などであるが、これらのピークまで極めた高技術を展開できる写真以外の他領域へ展開していかれた。事業分野はヘルスケア、マテリアル、ビジネスソリューション、イメージングと4つの大カテゴリーに分けられており、ヘルスケア事業分野ではメディカルシステム(診断)、コンシューマーヘルスケア(予防)、医薬品(治療)、バイオCDMO(治療・予防)、ライフサイエンス(治療)の分野にビジネスを展開している。メディカル内視鏡~X線画像診断~IVD(体外診断)~超音波~CT/MRIの各々のデバイスを医療ITで統括する仕組みを富士フイルムオンリーで構築できる仕組みができている。 院内感染を防ぐという大テーマに対して、写真フィルムで培ったナノ銀の活用と特殊塗工技を活用してHydroAg+を開発した。当初は院内で使用するスマホ、タブレットにむけたカバーフィルムとして展開。現在ではATMタッチパネル、デジタルサイネージ、オフィス機器、航空機モニター、タクシーなどに採用が進んでいる。また、フィルム塗工品だけではなく、アルコールスプレータイプやハンドジェルタイプなどにも展開している。スプレーやアルコールクロスタイプでの効果を確認するため、神奈川県下の病院や学校と提携しインフルエンザ等の感染予防対策のエビデンスを集めており、極めてよい結果がみられている。また病院向けには医薬品レベルの効果があるハンドジェルタイプの拡販を進めている。