2024年度 9月例会
参加者 148名(現地参加 75名、講師 2名、オンライン参加 52名、録画視聴 14名、お試し参加 5名)
開催日 2024年9月20日(金)
会場 タワーホール船堀 5F小ホール
講演

1.「ZACROSにおけるバイオ ~動物細胞の大量培養~」
ZACROS株式会社 ウェルネス事業本部 先端医療事業推進部 培養技術研究センター 技術開発課 課長 松田 博行氏
 当研究会では、ZACROS(旧社名:藤森工業)はフィルム包装やフィルムへの塗工の会社として知られているが、1970年代から医薬品包装フィルム製造に注力し、2010年ごろから点滴用薬液バックの製造販売をしている。
講演は、松田氏が学生時代にヒトの体内に存在する「一酸化窒素合成酵素」の機能解析の研究、ZACROSに入社後の抗血栓薬の開発から、従来技術のフィルムの製袋と医薬包装を掛け合わせた医薬品製造用のシングルユースバッグ開発への取り組みという自己紹介から始まる。
 ZACROSは、2010年ごろからバイオ医薬品(特に抗体医薬品)の製造プロセスで使用するシングルユース製品「バイファス®」の製造販売を行ってきている。バイオ医薬品は動物細胞を培養することにより目的のタンパク質生産を行うことから、動物細胞培養に用いる培養装置の開発を行い、さらに新しい領域として再生医療等製品のためのヒト細胞の大量培養への適用を進めている。
再生医療等製品に用いるヒト細胞の大量培養はまだ始まったばかりであり、2,000L培養へのスケールアップだけではなく、基礎研究から順序だてて工業化できるよう、数十ml~1Lというダウンスケールした培養モデルの開発も進めている。ZACROSはシングルユース技術と大量培養プロセスをコアに、再生医療ベンチャーにおける少量生産から製品製造を担うCDO、また大手製薬会社等から商用生産の受託を担うCMOの事業化も見据えている。さらに、当技術を細胞性食品=培養肉の製造にも活用しようとしていると発表があった。過去に医薬品包装フィルムや点滴薬液バック、シングルユース製品といった新しい技術の社会実装のために、安全性確保のルール作りのための多大な努力がなされたが、培養肉の製造販売においても社会に受容されるための安全を保障する製造ルールや安全基準が必要であり、ZACROSはNEDO事業を受託しTOPPANホールディングスと島津製作所とともに取り組んでいると説明があった。以上

2.「機能性フィルムを用いた医療用包材と環境配慮」
講師:大日本印刷株式会社 研究開発・事業化推進センター 事業開発本部
食とヘルスケア事業開発ユニット 開発第2部第1課 土田雅子氏

 気候変動と地球温暖化問題、さらには、海洋プラスチックごみの汚染が世界中で問題視されている。そのため、近年では包装を取り巻く環境課題が大きく変わっている。日本国ではプラスチック資源循環戦略が示され、製造や販売、回収リサイクルの各段階で3R+Renewableの施策促進が求められている。DNPはバイオマス化やリサイクル材活用、紙化等で環境パッケージの提供価値を高めているとともに、リサイクルのスキーム構築を地方自治体や関連企業、研究機関と行っている。但し、医薬品包材における環境対応は品質面での課題が大きく、まだまだ進んでいないのが実態である。医薬品包材における環境対応は非常に厳しい品質をクリアしないといけないが、DNPの様々な技術をかけ合わせることで、環境に配慮した製品を開発するんだという強い意思を見せた。以上

 

 

2024年度 夏季特別研修
参加者 68名(参加会員 60名、 講師 3名、 関係者 5名)
技術交流会参加者:60名
開催日 2024年8月2日(金)
会場 東レ株式会社「未来創造研究センター」、株式会社東レリサーチセンター
講演

1. 「東レのR&Dの取組み」
東レ株式会社 研究・開発企画部 部長 後藤 一起氏
 発表では、東レ株式会社の概要のほか、4つのコア技術を中心とした研究・技術開発並びに事業展開についての説明があった。また、特に基礎研究の重要性から、これまでも様々な研究拠点を設けてきたが、2019年に未来創造型融合拠点として「未来創造研究センター」が設立された。さらに100周年を迎える2026年には、名古屋にグリーンとナノの融合研究拠点を設立する予定とのことであった。「未来創造研究センター」では、ファインポリマー&ナノファブリケーション、・コンピュータ&マテリアルサイエンスの融合を目指し、50年先、100年先を見据えた、材料研究をさらに深化 させる研究拠点としているとのことである。
 事業拡大に向けたR&Dの重点分野として、「環境対応技術」、「炭素繊維複合材料」、「分離膜技術展開」、「次世代モビリティ材料」としており、それぞれの取り組みについて具体的な事例などの詳細説明があった。以上


2.「(株)東レリサーチサンターの最先端分析技術開発の取り組み」
株式会社東レリサーチセンター 技術開発企画部 研究主幹 兼 海外事業推進室長 山元 隆志氏(工学博士)
 同社は、半導体・実装、ディスプレイ・プリンター、電池・エネルギー、自動車、工業材料、環境、医薬、バイオなどを対象とした受託分析や、機器分析全般、有機分析、分光分析、表面分析、物性測定、半導体分析、電池分析、医薬品分析 等の分析講座を持つ教育事業を行っている。発表では、同社の概要のほか、同社の持つ技術に基づく顧客との信頼性の高さ、また様々な要望に応えるための「状況把握」、「分析」並びに「結果」を導くための事例が説明された。さらに、今回は機能性フィルムに関する分析事例として、「食品包装用積層フィルムの層解析」、「GCIB-TOF-SIMSによる光学フィルム表面処理層の定性分析」について最先端の事例説明が行われた。以上


3.〜空間革命〜カエル、カワル。機能性フィルムで拡げるミライ
Toppan(株) 生活・産業事業本部 環境デザイン事業部 マーケティング戦略本部 市場創造部 部長 渡辺 庸介氏
 「イノベーション創出」のDNAをもつTOPPANは2023年10月にホールディングス体制へ移行し、ガバナンス強化とグループシナジーの最大化を目指す。印刷技術を基盤に、250社以上のグループが連携し、多様な事業と価値創造を推進する。環境デザイン事業部のビジョン「あしたを、ここちよい空間(せかい)へ」を掲げ、想いをカタチにし、人々が豊かに暮らせるセカイ、すなわち“人々が遊び、働き、暮らすことに満足できる都市空間”を提供する空間演出ブランド「expace(エクスペース)」を2020年に立ち上げた。以来、お客様の声を重視し、ワンストップで多彩なソリューションを、国内外のトレンド調査を基にデザインマーケティングの上、環境に配慮した最先端テクノロジーを駆使した新たなオフィス空間をお客様とともに創造、提供してきた。機能性フィルムとしては、SDGsを推進し、業界初の抗ウイルス・抗菌オレフィンシートを開発。SIAA認証の製品で安心・安全な空間を提供し、傷や汚れに強い「SmartNANO®」シリーズで耐久性と快適な住空間を持たせる特徴を説明した。また空間に溶け込むインテリアディスプレイ「DOUBLE VIEW(ダブルビュー)」では、自動運転車やソフトウェア・ディファインド・ビークル(SDV)などの次世代モビリティを想定した新しい内装部材が紹介され、機能性フィルムで拡げるミライの可能性を示した。「空間演出」×「イノベーション創出」の観点で、今後の時代に即した環境配慮技術と枠組みを示し、機能性フィルムで拡がる・つながるミライが期待できるTOPPANのもつ最先端技術を紹介した講演であった。以上


4.矢野経シリーズ 船木知子の市場レポート「工業用PETフィルム市場の動向と展望」
 今回は、7月末に発刊した2024年版高機能フィルム市場の展望と戦略」からの情報について発表があった。特に、直近のトピックスについては、鋭い視点から業界再編や今後の動向などについて当日のみの資料に基づき説明された。


5.施設見学ツアー
 60名を10名づつの班に分け、「未来創造研究センター」及び「東レリサーチセンター」の施設見学を行った。見学中には多くの質問が出され、ツアー時間の制約ですべてには対応できなかったが、参加者の興味と関心の高さがうかがえた。以上

2024年度 第23回定期総会&6月例会

参加者 138名(現地参加:87名(講師含む)、オンライン参加:40名、録画視聴:11名)
技術交流会参加者:70名
開催日 2024年6月18日(火)
会場 タワーホール船堀5F 小ホール
定期総会 1. 2024年度第23回定期総会
<議案審議>
1)1号議案 2023年度(2023年4月1日~2024年3月31日)事業報告
2)2号議案 2023年度事業収支報告、審議
3)3号議案 2024年度下記事業計画に関する審議
 ① 活動方針(年次テーマ、重点課題)
 ➁ 活動計画
 ③ 運営予算
4)4号議案 2024年度役員選任(会長、副会長、理事)に関する審議
5)5号議案 会則改定に関する審議
 ① 海外法人会員区分の廃止と法人会員としての会費改定の件
 ➁ 賛助会員の定義の明確化

上記議案すべては、会則第9条2)に基づき承認されました。
メンバーズ・インサイト 1. アイカ工業株式会社
2. サイデン化学株式会社
3. 東山フィルム株式会社
講演

1. 特別講演 「プラスチック製品製造業における人手不足と特定技能・技能実習制度の現状」
経済産業省 製造産業局 素材産業課 課長補佐(有機化学) 岸田 学氏 
 経済産業省素材産業課は、金属以外の素材を扱い、業界団体との関係などでの業務を行っている部署である。プラスチック製品製造業における人手不足が深刻であり、ニーズも高いことから、この分野にも特定技能制度の対象拡大が2024年3月に閣議決定された。今回は、全産業、製造業またその中のプラスチック製造業における、就業動向として、全従業員数、高齢者就業者数、34歳以下の若年就業者数及び女性就業者数の各動向について説明があった。さらに、厚労省の調査による男女間の賃金格差についての説明では、世界的に見ても日本は格差が大きく、また全産業よりも製造業における格差が大きいとの説明があったが、プラスチック製造業では、全製造業よりは格差は小さいとのことである。正規雇用/非正規雇用の比率で、製造業では正規雇用の比率が高い状況で推移している。
 中小企業における「産業別従業員数過不足DI(過剰割合―不足割合)」では、現在人手不足感が強くなっている。この中で、製造業における外国人労働者数は、コロナ禍を除いて増加傾向であり、2014年27.3万人に対し2023年は55.2万人となっている。(2023年在留外国人数は341万人強、在留外国人労働者数204万人強)
 プラスチック製品製造業での人手不足の事例として、外国人労働者の熟練や指導への意欲が増加している一方で、日本人熟練工の退職などで、品質トラブルへの対応力が落ちているなどの紹介もあった。外国人への「技能実習制度」(技術を身について自国の発展に寄与する目的での採用。プラスチック成型方法の一部が対象職種)と「特定技能制度」(国内人材確保が難しい場合で、一定の専門性・技能を持つ外国人採用)との違いの説明とともに、後者の制度が2024年3月にプラスチック製造業にも対象が拡大されたとの説明があった。なお、会員からの要望として、「技能実習」対象の中で、インフレーションフィルムが対象でTダイ法フィルム・シートが対象外となっている中で、対象となるよう見直しを要望することについては、「技能実習」の対象職種を選定してきた経緯(業界団体、海外からの要望など)があるためとし、今後関連する業界団体からの要望の状況を踏まえて必要に応じて検討するとの回答があった。以上


2. 講演 「スペクトル超解像によるX線光電子分光測定の高速化」
東海国立大学機構 名古屋大学
未来材料・システム研究所附属未来エレクトロニクス集積研究センター 准教授
/ SSR株式会社 取締役CTO 原田 俊太氏  
https://spectralsr.com/
 今回の発表は、フィルムの研究開発、評価に利用される分光分析において応用される「スペクトル超解像度」の利用について紹介があった。未来エレクトロニクス集積研究センターは、青色発光ダイオードでノーベル賞を取られた天野 浩教授がセンター長でおられ、主にGaNやSiCなどを利用した先進パワーデバイス、システム、パッケージに関する研究をおこなっており、原田氏は結晶欠陥などの測定において分光計測にインフォマティクス(情報学)を応用すること、また他の産業での活用可否なども検討している。また、AIの普及促進のために「(一社)製造業AI普及協会」を立ち上げ、製造業へのインフォマティクス応用についての普及活動も行っている。
 今回は、分光データを「スペクトル超解像技術」を利用してよく見えるようにすること、また関連した製造プロセスでの機械学習制御として、結晶成長操作の自動制御に於いて、強化学習のアルゴリズムの開発と応用についての紹介があった。事例として、画像超解像では、少ない画像データから、妥当なデータの推定で再構築する技術(よく見えるようにする技術)があり、分光測定の時間短縮や測定データのS/N比(ノイズ)を低減することが可能となることがわかってきているとのこと。また顧客が測定したデータを解析できるソフトを開発されたとのことである。ベイズ超解像度アルゴリズムの特徴及びラマン分光分析への応用、さらにXPS(X線光電子分光分析)への応用についての説明がされた。これらに取り組んだ理由として、結晶欠陥の測定に於いて、ラマンピーク位置の変化(0.02~0.03cm-1)を詳細に測定し、そのコントラスが分ることから欠陥を見つけ出すことができるが、その精度を知るためにインフォマティクスによる複数の画像から解像度を上げるアルゴリズム(ベイズ超解像:ベイズ推定=事前の知識を利用して推定する)があることを見出し応用したとのこと。なお、超解像は、分解能や解像度を上げることではなく、データの間隔を細かく、特徴を見出すこととのこと。具体的な実験例として、ラマンスペクトル測定で測定したSi基板の測定データについて、実際の実験データに対して超解像して、連続的な再構築データが示された。さらに用途応用として、FTIR、EELS(化学分析および組成分析用電子エネルギー損失分光法)などがあるとの説明があった。特にXPS測定における測定時間の短縮に有効であるとのことである。以上

2024年度4月例会

参加者

142名(現地(講師含む):74名、オンライン参加:57名、録画視聴:11名)
技術交流会参加申込者(61名)

開催日 2024年4月18日(水)
会場 タワーホール船堀5F 小ホール
講演
  1. 「変わる勇気と変える力で、廃棄物から再生資源物へ」
    株式会社アールプラスジャパン 代表取締役 横井 恒彦氏 
     米国アネロテック社では、使用済MIXプラからBTX(ベンゼン・トルエン・キシレン)だけでなくオレフィンの生成に成功している。これを事業化するために、コストのみならずサプライチェーン全体で連携しケミカルリサイクル技術開発支援をし、排出プラの再資源化への仕組みづくりに国内約40社が参画連携し、アールプラスジャパンが設立されている。
     同社のビジネスモデルは米国アネロテック社の技術で国内商業プラントを事業化し、そのロイヤリティーはアネロテック社に配当される。またアールプラスジャパン参画企業には一部の配当と各種再生材のオフテイク権の獲得や企業価値向上というメリットがある。
     アネロテック社の再生技術は、MIX廃プラを選別処理後に破砕・脱ハロゲン処理し、500℃での熱分解と触媒分解によりエチレン・プロピレン・BTXなどの基礎化学品への変換を可能とする。これにより菓子類などの食品軟包材や紙PAC、工業用機能性フィルムなどの複合積層フィルムでも500℃程度で分解できる炭素系有機化合物であれば再生可能であり、油化~クラッキング工程が不要であるためCO2削減効果もある。この機構は装置の強度制約を受けないためユニットの大型化が可能でありスケールメリットを生かしコスト低減や環境寄与度も大きく出来る。なお、触媒の選定により希望する再生基礎化学品の比率を変更可能とのこと。この再生技術をもってMIX廃プラをサーマル利用からケミカルリサイクルにするこで付加価値をアップさせサーキュラーエコノミーを後押しできる。2030年以降にプラント稼働を目標にしており、アールプラスジャパンはボトルtoボトルから新たなプラtoプラの循環社会を目指していくとの説明があった。

  2. 「変わる勇気と変える力で、廃棄物から再生資源物へ」
    株式会社パックエール 代表取締役 内村 元一氏
     SDGs が広く浸透してきた社会において、包装は大きな転換期を迎えており、世界各国の政府そして企業では「サーキュラーエコノミー」の考え方に基づいた法整備や取組みが進んできている。具体的には、包装設計、ラベル表示、法規制の3点で説明された。包装設計の指針として 世界包装機構(WPO)が提示した「PACKAGING DESIGN FOR RECYCLING」(日本語訳:リサイクルのための包装設計ガイドライン)は、今後のリサイクルに向けた考え方の基本を示している。ラベルは、国内では、リサイクル方法を表示しているわけではなく、構成される原料の50%以上のものを示すのみである。しかし、アメリカ、オーストラリアは、リサイクル方法を表示するラベルになっている。ヨーロッパでは、リサイクル材料の食品包装への展開を促進するための法規制の強化が進んでいる。加えて リサイクルするための紙化促進の利点とそれを具現化する課題なども説明された。これらは、包装材のSGDS対応が大きな変化点を迎え、より永続的な対策へ向かう流れになったことを示唆する講演であった。
    以上