今年度に行った例会等の活動内容をご報告いたします。
前年度までの活動は、年度別活動概要 からご確認いただけます。
2025年度夏季特別研修
参加者
76名(現地参加のみ)、技術交流会参加者:59名
開催日
2025年7月11日(金)
会場
ダイキン工業株式会社 テクノロジーイノベーションセンター(TIC) 6F「フューチャーラボ」
講演
1.「ダイキン工業とTICの紹介」 ダイキン工業株式会社 テクノロジーイノベーションセンター 管理グループ担当課長 塩谷優子氏 化学事業部 渉外企画担当課長 吉山麻子氏 ダイキン工業株式会社は1924年創業のグローバル空調メーカーであり、空調事業に加え、化学事業にも展開している。冷媒用フロンの開発を起点に、ルームエアコンを開発・海外展開し、現在では売上高4兆円超、海外売上比率83%を誇る。 同社のR&D拠点であるテクノロジーイノベーションセンター(TIC)では、カーボンニュートラルを目指した技術開発や、地域特性を考慮した製品開発を推進しており、産学連携・企業間連携を積極的に行う場でもある。化学事業では主にフッ素化合物を扱い、その多様な特性により、半導体、自動車、情報通信、住宅・生活・建築分野など幅広く活用されている。PFAS(ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物)には、人体への影響が懸念され、規制をされているPFOA(ペルフルオロオクタン酸)、PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)があるが、すべてのPFASが人体に影響があるわけではないとの説明があった。また、分子量の大きいフッ素ポリマー製造工程をより持続可能な新技術へ移行するなど、環境負荷を最小限に抑える製品開発を進めているとのことであった。また工場敷地内では、工場内の地下水が外に漏れないよう、遮水壁を設けるなど、徹底的な安全策を講じているとの説明もあった。
2.「大倉工業の加工要素技術とLCP(液晶ポリマー)フィルムについて」 大倉工業株式会社 R&Dセンター 情報電子開発部 安部 隆志氏 大倉工業(株)の会社概要について説明があり、夏季研修開催日の7月11日は、大倉工業殿の78周年記念日であるとのことであった。事業部としては3部門があり、合成樹脂事業部では、PE及びPPフィルムを工業用、包装用、農業用などに展開し、売上比率の64%をしめている。次いで新規材料事業部は18%の売上比率であり、ウレタンエラストマー、偏光板保護フィルムなど高機能フィルム製造、フィルム二次加工及び嫌気性、UV硬化性接着剤などを扱っている。さらに建材事業は16%の売上比率を持ち、パーティクルボードなどの建築用材料の製造販売をしている。またホテル事業、情報処理事業などの異業種事業も行っている。 同社の強みとして、ポリマーブレンド多層化など材料の設計、開発技術のほか、インフレーション、Tダイ-キャスト成膜、延伸、塗工などの顧客ニーズに基づく製造プロセスとしての加工要素技術について丁寧な説明があった。R&Dセンターの今後注力する開発の方向性として、「環境エネルギー」、「ライフサイエンス」、「情報電子」領域に横断的な分野である「モビリティ領域」に注力していくとのことであった。 その取り組みの一つとして、LCPフィルムについて詳細な説明があった。LCPフィルムの主な用途は、高周波低損失FPCとしてのFCCL(銅箔と絶縁フィルムを張り合わせた部材用であり、これまで通信規格用としてポリイミド(PI)や、変性ポリイミド(MPI)がカバーできる周波数帯(700MHz~4.5GHz)以上の、本来の5G高周波数体(28GHz)に対応できるフィルムとして、フッ素フィルムやLCPフィルムなどの伝送損失が少ない材料が求められているとのこと。この中で、LCPは剛直な分子構造を持ち、溶融状態で急激に粘度が低下することで、フィルム化するには非常に扱いにくい材料ではあるが、他の材料に比べ、はんだ耐熱性、低吸水性、難燃性など高周波低損失FPCに求められる特性を持っており、FCCL化は、ダブルベルトプレス機を用いた熱ラミネート法で製造されるのが一般的である。このLCP材料を、同社の強みである加工要素技術を駆使し、フィルム化に成功し、FCCLメーカーを中心に提案しているとのことであった。 質問として厚みのニーズについては、100mμまで要求があるが、25,50μmによりフィルムを熱ラミネート等で積層して使用することもできる。なお、厚みのコントロール方法、公差、加工方法などはノウハウに関わるため回答はなかった。またカーボンニュートラルに関しては、太陽光パネルの利用などの回答をいただいた。
3.「東レの『機能性フィルム』の開発動向 『資源循環』と『半導体』」 東レ株式会社 フィルム事業本部 ルミラー事業部門 ルミラー1部 渡辺 恒太氏 東レ(株)の会社概要、事業領域(繊維、フィルムなどの機能化成品及び炭素繊維複合材料、ライフサイエンス、環境エンジニアリング)の説明をいただいた。2024年度決算では、繊維事業が初めて1兆円を超え、また繊維は成長産業であるとの大矢社長の認識も説明された。次いで機能化成品事業が約9,500億円であり、この2事業部門が東レの中心的事業であるとのことであった。なお、フィルム事業は、機能化成品事業の約三分の一(全体の14%)を占める事業部門とのことである。 「素材には社会を変える力がある」とのモットーから、同社のフィルム事業について説明があり、中核事業のPETフィルム事業における製品品位、生産能力を踏まえた世界展開及び自己粘着フィルム(無延伸PPフィルム)は世界No.1の製品量とのこと。 フィルムの成膜技術については、製品別に、溶融成膜(2軸延伸)、同(無延伸)及び溶融成膜法、また加工技術としてウェットコーティング、蒸着の紹介があった。次いで、生産拠点、生産能力及び、開発拠点の紹介では、半導体領域のニーズをつかむために今年台湾にも開設されたとのことである。 同社の要素技術として、「ポリマー設計技術」、「フィルム設計技術」に基づき、さらに耐熱性、透明性、平滑性などの極限特性を追求し磁気テープ、光学フィルム、バッテリーフィルムなどの開発を行っている。PET素材では、金糸、銀糸などが最も早く工業化し、中核となった事業とのこと。 なお、2025年目標中期経営計画のおいて、SI事業(サステナブルイノベーション事業)及びDI事業(デジタルイノベーション事業)を成長領域とした循環型リサイクル事業などの紹介とともに、半導体製造の詳細な工程説明とともに、それぞれに求められるフィルム製品についてのPFASフリーフィルム(モールド離型フィルム)などの詳細なフィルム製品について説明をいただいた。
施設見学
参加者は4班に分かれて施設を見学した。TICの建物全体がZEB(Net Zero Energy Building)の実証実験の場となっており、太陽光発電、遮熱塗料、地中熱利用、自然光の取り入れ、空調の高効率化、CO₂センサーなど、快適な室内環境と省エネを両立する最新技術が集約されている。 建物内のダクトは透明で、天井はむき出しになっており、若手社員の学習や実証実験を容易にする工夫が施されていた。4・5階:オフィスフロア。中央には「ワイガヤステージ」が設けられ、自由な意見交換の場となっている。3階:「知の森」と呼ばれる技術者の商談・情報交流スペース。1階:「啓発館」では、経営理念や技術史を紹介し、企業風土の共有を図っているとのこと。 TICは、同社が掲げる「オープンイノベーション『協創』」を加速する場として、企業・ベンチャー・大学との実証実験やミーティングが自由に行える環境が整備されている。執務空間では社員間のコミュニケーションを促進する工夫もなされており、非常に快適な職場環境であると感じた。 空調を中心としたZEBの取り組みは非常に興味深く、今後の参考となる貴重な学びであった。猛暑の中、約70名が参加した今回の見学会では、概要説明から施設見学までを通じて、環境・イノベーションへの真摯な取り組みを肌で感じることができ、大変有意義な体験となった。
2025年度総会&6月例会
参加者
156名(現地参加:92名、Web配信:51名、ビデオ配信:13名)、技術交流会参加者:75名
開催日
2025年6月26日(木)
会場
タワーホール船堀 小ホール
メンバーズ・インサイト
・株式会社ユシロ ・松尾産業株式会社
総会
1)1号議案 2024年度(2024年4月1日~2025年3月31日)事業報告 2)2号議案 2024年度事業収支報告 3)3号議案 2025年度事業計画に関する報告 ①活動方針(年次テーマ、重点課題) ②活動計画 ③運営予算 4)4号議案 2025年度役員選任(理事増員)に関する審議
上記議案はすべて会則第9条2)に基づき承認されました。
講演
1.「世界初、厚肉二軸延伸PPシート(TOP)と、BOPP積層プレート(LOP)のご紹介」 株式会社エフピコ 総合研究所 基礎技術研究室 博士(工学) 中島 武氏 世界初となる150μmを超える肉厚の二軸延伸PPシート(TOP)および厚さ1~3mm程度のBOPP積層プレート(LOP)の製品の特長を紹介し、想定する用途での優れた物性や機能を具体的にご紹介いただいた。とてもよい樹脂が開発された為、エフピコ社が得意とする食品トレー以外の分野への進出も積極的に図っておられる開発商品であった。 従来の2軸延伸PPフィルムでは20μm程度で製造されているが、このTOPは150μmを超える厚みのシートであり賦形が可能である上、無延伸キャストシートよりも物性が優れている。これによってインモールド成形などでの加飾用シートとして従来品では見られない高物性バランスであるということをご説明いただいた。 様々な素材(金属や樹脂)との比較データを数値で示していただき、また高剛性、加工性、高靭性についてはビデオを見ることで優位性をより理解しやすい講演となった。 当方の私見ではあるが、エフピコ社の食品トレーでの圧倒的シェアからフィードバックされたリサイクルに対する追及に感嘆をした。モノマテリアル化などもよく考えられており今後自動車の部品や大型部品への採用を期待することとなった。
2.「フィルムを中心とした外装加飾の最新動向と今後の展望」 D plus F Lab 代表(加飾技術コンサルタント) (一社)加飾技術研究会 理事 伊藤 達朗氏 本講演では、自動車分野を中心とした加飾技術の全体像と、その進化の方向性が紹介された。加飾とは、製品の表面に装飾を施すことで意匠性や商品価値を高める技術であり、近年では見た目の美しさに加え、触感・機能性・環境対応といった多面的な付加価値が求められている。 加飾手法については、一次加飾(NSD、IMD)や二次加飾(OMD)といった分類が示され、それぞれの特徴や意匠性、コストとの関係についての解説があった。さらに、自動運転レベルの進展に応じた内装デザインのトレンドやインターフェースの進化、環境対応技術の展開にも言及され、未来の車両を見据えた自動車加飾部品のロードマップが提示された。 機能付与の観点からは、電波透過性、光透過タッチパネル、太陽光透過対応といった機能との融合事例が紹介され、加飾と機能の両立が進んでいることが示された。加えて、サステナブル素材の活用や剥離性加飾によるリサイクル対応など、環境への配慮が重視されている点も印象的であった。 今後予想される少量多品種生産への対応策としては、3Dプリントやオンデマンド印刷を活用した加飾技術の可能性が提示され、将来は自動車にとどまらず、住宅やロボットなど幅広い分野への加飾フィルムの展開が期待されていることが明らかとなった。 加飾技術は、「デザイン素材 × 加飾技術 × 機能付与」の融合により、より高付加価値な製品づくりを支える重要な要素であることが実感できる講演であった。
2025年度4月例会
参加者
151名(現地参加:85名、Web配信:53名、ビデオ配信:13名)、技術交流会参加者:70名
開催日
2025年4月17日(木)
会場
タワーホール船堀 小ホール
メンバーズ・インサイト
・シーシーエス株式会社 ・大塚電子株式会社
講演
1.「レゾナックの共創型研究開発」 株式会社レゾナック・ホールディングス 研究開発企画部 稲吉 輝彦氏 レゾナックは、2023年1月昭和電工と日立化成の統合により誕生した「共創型化学会社」で、お客様やパートナーと共に未来を創る「共創型研究開発」を推進されており、これにより、特に半導体材料などの先端分野において、お客様のニーズを深く理解し、スピーディーな製品開発を実現する体制を構築されているとのことです。 その中核となるのが、「パッケージングソリューションセンター(PSC)」や「パワーモジュールインテグレーションセンター(PMiC)」や「共創の舞台」といったお客様との共創拠点で、そのPSCでは、プロトタイピングから実装・評価、シミュレーションまでを一貫して行えるオープンな開発環境を提供し、お客様の開発期間短縮に貢献するため、半導体メーカー各社と連携し、後工程(パッケージング)における最先端の課題解決に取り組んでいるとのこと。 また、PMiCでは、熱マネジメントや低インダクタンス化といった重要課題に対し、多様な素材評価やお客様との共同検証を通じて、最適なソリューションを追求するためにEV(電気自動車)の進化に不可欠なパワーモジュールに焦点を当てている。 グローバル戦略の一環として、米国シリコンバレーに「US-JOINT」が設立され、世界の先端半導体メーカーやテクノロジー企業と緊密に連携し、2.xD・3Dパッケージといった次世代後工程技術の開発を加速させ、グローバル市場での競争力を強化しているとのことです。 同社の共創型研究開発は、単に製品を開発するだけでなく、レゾナック独自の「作る化学(素材技術)」、「混ぜる化学(機能設計技術)」、「考える化学(評価・シミュレーション技術)」という3つのコア技術を融合させ、材料開発からソリューション提案まで、お客様の多様なニーズにワンストップでお応えできる先端材料パートナーとなることを目指している。 こうした共創を支えるのは「人材」であり、同社では、部門や企業の壁を越え、共感と共鳴を通じてイノベーションを牽引できる「共創型人材」の育成にも注力しており、社員一人ひとりの自律的な成長を促し、オープンで活発な組織文化を醸成しているとのこと。 同社の共創型研究開発は、常にお客様の課題解決からスタートし、グローバルな競争環境で勝ち抜くため、迅速な技術開発とそれを支える人材育成を両輪とし、世界トップクラスの機能性化学メーカーを目指す同社の成長戦略、その核心となるとの力強い講演であった。
2.「見えないエネルギー赤外光のエネルギー資源化への挑戦 〜次世代熱線遮蔽フィルムの開発に資する新素材の開発」 大阪大学 産業科学研究所 教授 / 株式会社 OPTMASS CEO(兼任) 坂本 雅典氏 熱線(遠赤外)で発電する透明太陽電池が実現すれば、熱線を吸収して発電する窓ガラスを都市に設置することにより、温暖化の原因と言われる都市が温暖化防止とエネルギー生産を行うことが可能になります。このような大きな理想を目指して、不可能と言われる研究に挑戦し、粘り強く行ってきたことは非常に評価されるべきです。 さらに、この研究により、赤外光を選択的に吸収するナノ粒子の開発に成功し、素材やドープ量で赤外域の吸収を制御することが可能になり、透明化にも成功しました。透明太陽電池では世界最高効率のエネルギー変換を達成すると同時に、極めて独自性の高いナノ粒子技術を開発したことは、大変素晴らしいと感じました。 また、この太陽電池の事業化を目指し、素材メーカーから開始し、デバイスメーカー、太陽電池メーカーと進めるシナリオを基に株式会社 OPTMASS を立ち上げており、事業化が進んでいます。具体的には、このナノ粒子を用いた無機材料の耐久性と有機物の溶解性を持つ塗料を使用した熱線遮蔽フィルムを開発し、N電鉄本社ビルの窓ガラスの実証実験を行い、高い効果が確認されています。さらに、透明導電材料などへの新規材料実用化も現在進行中であり、今後の技術応用展開が大きな可能性を持つと感じました。